劇団東京少年座夕暮れの学校 一人の少年が校門の陰から校舎を見つめていた ぼくはときどき 夢をみる 夢はいつも同じで こんな夢だったと思う だれかがポツンと一人で立っている 車がせわしく往来し 雑然とした街の狭間を行きかう人の 無数の影が動きつづける だれもが だれもに 無関心をよそおい だれもが各々 楽しむ術を持っているかのようだ だれかが ポツン と一人で立っている。 そこだけが唯一 動かない空間のように見える。 だれだろう 何ももってないようだ 女だろうか 男だろうか 何も着飾ってない いや あれは少年だ ただの一人の少年だ 自分の背丈だけで さっきからそこに ずっと立っている そこだけが唯一 意志のある空間のようにみえる 少年の目は 静かに深くこらされる そして ゆっくりと 辺りを 見渡しはじめる 何かを覚えこませている 何かをはねつけている いや 何かを探している 「 どれも当っているが どれもはずれているよ 」 少年と目があってしまった 「 どうやら君も 君の背丈だけで ずっと そこに 立っているようだね 」 一瞬 少年の目がぼくにそう訴えたかのように見えた。 すると とたんに その目がいたずらっ子の輝きに変わり ぼくに向かって 駈け出してきた ぼくも夢中で走り寄っていた 「 やあ 僕はただの少年さ 」 「 ぼくだってそうさ 」 「 君と会えて嬉しいよ これからずっと友達さ 」 「 本当かい 」 「そうとも どこへ行こうが 僕は背丈のまま 君のことは絶対忘れないよ 僕たちはどこいても すぐに見つけあえるのさ さあ 行かなくちゃ また会おう 気をつけて 」 そう言い残すと少年は ゆっくりと向こうへ歩き始めた すぐにわかるさ だって あの少年はどこいようと 背丈のままだもの さあ行こう またいつか会える そして ふたりは 再び 雑踏の中へと 帰っていった |